公認心理師試験対策:(7)知覚および認知
はじめに
本記事は、2019年に実施される第2回公認心理師資格試験の自主学習のために、
ブループリントの項目順にキーワードとその概要を並べていきます。
今回は7番目、「知覚および認知」についてまとめていきます。
知覚及び認知
人の知覚・知覚の機序及びその障害
心理物理学
精神物理学ともいい、英語では"psychophisics"といいます。
フェヒナーの法則で有名なグスタフ:フェヒナーが創始者です。
外的な刺激(光、音など)は物理量として客観的に測定できます。
そこで、こういった外敵な刺激と内的な感覚との対応がわかれば、内的な感覚(クオリア)も客観的に測定可能である、といった考え方です。
上述したフェヒナーの法則は、内的な感覚(心理量)は以下の式で表現できるとしたものです。
ただし、Rは心理量、kは感覚定数、Sは刺激の物理量です。
心理量は、物理量の対数に比例するというのが上式の考え方です。
つまり、物理量が0であれば心理量も0で、物理量が強くなりすぎると心理量の変化は急激に小さくなります。
明るさと色の知覚、空間(運動、奥行き)の知覚、物体とシーンの知覚
光という刺激は目で受けます。
目では、水晶体(レンズ)で光を屈折させ、網膜に映像を投影します。
網膜には2種類の視細胞があり、錐体と桿体があります。
錐体は明るいところで明所視を担っています。
明所視は光量が十分にある状況下での視覚のことをいい、色覚が可能です。
桿体は暗いところで薄明視を担っています。
薄明視は明所視と暗所視の組み合わせで、光量が少ないが完全な暗闇でない状況で用いられます。
人の色覚は赤、緑、青の三色性色覚で、ディジタルカメラやパソコンのディスプレイで使われるRGBもこれに基づいています。
音と音声の知覚
音は、空気などの媒質を伝わる波です。
耳の鼓膜がこの波を受け取るとその振動の周波数を解析し、聴覚神経に伝えられます。
ヒトの可聴域は、通常下は20Hz、上は20kHzから15kHzです。特に上限は加齢とともに下がっていきます。
「モスキート音」という「ピー」という若者にしか聞こえない音というのが昔流行っていたと思います。
音声は、声帯運動(ピッチ)と声道構造(フォルマント)で構成されます。
母音の音声特徴は第一フォルマントと第二フォルマントで決まります。
日本語の母音は5種類(ア、イ、ウ、エ、オ)ですが、英語は8~10種類、スウェーデン語は13種類以上あります。
音声は100~300Hzで、この周波数帯は胎児の頃から聞こえていると言われています。
また、出生後の新生児の状態ではどの言語の音声も入力される白紙の状態ですが、生後1年も経てば、聞かされていた言語の母音の種類よりも細かい区別はつかなくなります。
聴覚においても、フェヒナーの法則は適用され、ヒトの聴覚は高周波数になるほど変化に鈍感になります。
味覚、嗅覚、触覚
味覚は、4基本味(甘味、酸味、塩味、苦味)があり、ドイツの心理学者ヘニング(Han Henning)が提唱しました。
その後、日本では、池田菊苗がうま味を発見し、日本ではうま味を加えた5種類の基本味があることがスタンダードになりました。
辛味を感じる受容体は別に存在し、灼熱感や痛みを辛味として感じます。
なお、この受容体は舌だけでなく全身に分布しているため肌にカプサイシンを塗りつけても同じような痛みや灼熱感を感じるはずです。
嗅覚は、揮発性の科学物質が嗅覚器の感覚細胞を刺激することで生じる感覚です。
触覚は、皮膚にかかる圧力から物体の形状などを認識する能力です。
体性感覚、自己受容感覚、多感覚統合
体性感覚は、皮膚感覚、内蔵感覚、深部感覚を指し、感覚器が外からははっきりと見えないものです。
この話題においては、ペンフィールドのマップやホムンクルスが有名です。
これは、身体の感覚が、脳内のどの領域に、どれくらいの強度で伝わるかをマッピングしたものです。
自己受容感覚は、体性感覚の内、特に内臓感覚と深部感覚を指します。
多感覚統合は、以上のような感覚を統合して処理することです。
ヒトは、単一のモーダルのみで判断せず、複数のモーダル情報を処理して判断しています。
一方で、これは日常的な現象ではありませんが、マルチモーダルな情報処理に関してはマガーク効果という興味深い現象があります。
これは、「ガーガー(Ga Ga)」と言っている映像を見せながら「バーバー(Ba Ba)」と言っている音声をかさねると、「ダーダー(Da Da)」と言っているように聞こえるという現象です。
感覚統合の中で、ヒトは矛盾のないように処理しようとしている例です。
注意、意識
意識は、自分の今ある状態や周囲の状況を認識できている状態を指します。
注意(attention)とは、数ある刺激の中で特定の刺激に対して選択的に向ける意識の働きを指します。
聴覚での注意の例に、「カクテルパーティ効果」があります。
これは、カクテルパーティのような騒音のある環境下で、話し相手の音声に対して選択的に意識を向ける効果です。
知覚の可塑性
可塑性は、外界の刺激に応じて機能的、構造的に変化する性質を指します。
調べた限りでは、「神経の可塑性」についての解説がより多く見かけられました。
神経系では、以下の3つの可塑性があります。
- 脳の発達段階に見られる可塑性
- 脳の老化や障害を受けたときに神経の機能が消失、障害されるが、それを補填していく過程
- 記憶や学習などの高次の神経機能が営まれるための基盤となるシナプスの可塑性
人の認知・思考の機序及びその障害
ワーキングメモリ、短期記憶、長期記憶
上述のようにヒトが外界の刺激を受けとったとき、数秒程度すべての情報は保持されます。
この数秒程度の記憶を感覚記憶といいます。
また、意識して覚えようとしたことは、7±2項目であれば、十数秒程度覚えることができます。
この記憶の過程を短期記憶といいます。
さらに、意識して覚えることを繰り返したり(維持リハーサル)、他の知識と結びつけて覚える(精緻化リハーサル)ことで、半永久的に、無制限に記憶に留めることができます。
この記憶の過程を長期記憶といいます。
短期記憶と長期記憶という分類方法は、「記憶の二重貯蔵モデル」に基づいています。
長期記憶は、更に以下のように分けられます。
ワーキングメモリは、バドリーが記憶の二重貯蔵モデルの限界点を指摘したことから始まります。
以下の内容は脳科学辞典を参考に作成しました。
バドリーのワーキングメモリの理論では、記憶貯蔵庫は以下の2つで構成されるとしました。
- 音韻ループ
音声言語機能を司る貯蔵庫
- 視空間スケッチパッド
視覚、空間情報を司る貯蔵庫
- 中央実行系
音韻ループと視空間スケッチパッドを制御する
さらに、中央実行系は、以下の機能があることを後に明示しました。
- 注意の焦点化
- 注意の分割
- 課題のスイッチング
- 長期記憶とのインターフェース
推論(演繹的推論、帰納的推論)
演繹的推論は、一般的な法則性から個別の事例についての命題を導き出すものです。
「A=B、B=Cであるならば、A=Cである」といった三段論法をはじめ、前提が正しければ必ず正しい結論が導かれます。
一方で、帰納的推論は、個別の事象から一般的な法則性などの仮説を導き出すものです。
仮説や信念に沿った情報のみを集めて、反証する情報を集めない傾向を指す確証バイアスをはじめ、正しい結論に導かれる推論法ではありません。
以前は推論といえば以上2つを指していましたが、近年では「アブダクション」という推論方法も注目されています。
アブダクションとは、観察された事象を最も説明する仮説を一旦立て、より説明できる仮説が現れたらそれに更新していく推論方法です。
つまり、結論が真であることは保証せず、最も尤もらしい仮説を常に探索し続けるというスタンスを取ります。
臨床実践に沿って考えてみましょう。
専門家は、インテーク面接での情報から、見立てとして最も尤もらしい仮説を立てます。
そして、継続面接の中で得られた情報から、必要に応じて見立てを更新していきます。
もちろん、見立てを更新するのは、更新後の見立てが更新前よりも尤もらしいからです。
アブダクティブな仮説設定には、標準化された手続きがあります。
(詳細は省きます)
ケースの中で見立てを立てる、更新するために、かなり有用な理論です。
(注目されてから結構立つのに、なぜ取り上げられないのだろう・・・)
思考、問題解決
思考は、
- 考えや思いを巡らせる行動
- 結論を導き出す[2]など何かしら一定の状態に達しようとする過程において、筋道や方法など模索する精神の活動
です。
問題解決は、思考のひとつで、その方法にはアルゴリズムとヒューリスティックがあります。
アルゴリズムは定式化された解決方法で、確実に答えにたどり着く一方で、煩雑で時間がかかる可能性があります。
一方で、ヒューリスティックは、迅速にある程度の答えにたどり着けますが、その精度は低く、正しい保証はありません。
ヒューリスティックには以下の種類があります。
こちらの記事を参考にしました。
ヒューリスティック | 概要 |
---|---|
代表性ヒューリスティック | 典型例と類似している事項の確率を過大評価しやすいヒューリスティック |
利用可能性ヒューリスティック | 想起しやすい事柄を優先して評価しやすいヒューリスティック |
係留と調整ヒューリスティック | 最初に与えられた情報を手がかりにはじめ、最終的な回答を得る推測 |
再認ヒューリスティック | 対象を見たことがある、感じたことがあるという感覚を用いた方法 |
意思決定
意思決定とは、個人や集団が特定の目標を達成するために、ある状況において複数の案から最善の解を求めようとする認知的行為です。
社会心理学では、意思決定の際に集団で意見を一致させようとするとかえって不合理な意思決定を行いやすいという指摘があります。
脳機能計測技術
脳の様子を測定する技術には、以下のようなものがあります。